研究概要 |
Diels-Alder反応はジエンおよびジエノフィルが上下から接近し,二重結合の電子軌道の重なりから協奏的にシクロヘキセン環を合成する付加反応である.本研究が行われるまでDiels-Alder反応を触媒する酵素の報告はなく,Diels-Alder反応触媒酵素が存在するかどうか,また,存在した場合にはどのようなメカニズムにより反応が進行するのかという命題に対して多分野からの興味が注がれていた.我々は平成15年度に報告したように,まずマクロフォミン酸合成酵素(MPS)の立体構造を解析した.立体構造情報から反応進行に重要だと考えられる残基に変異を施したミュータントを多種作製し,それぞれHPLCにより酵素活性を定量した.この結果,2-ピロンの2位カルボニル酸素および5位アシル酸素がそれぞれArg101グアニジル窒素,Tyr169フェノール酸素と水素結合を形成し,この水素結合がMPSの炭素・炭素結合反応において重要な働きをしていることがわかった. Diels-Alder反応はジエンのHOMOとジエノフィルのとの相互作用で進行するが,一般にジエノフィルに導入された電子吸引基や,ジエノフィルの反応溶液中のLewis酸との相互作用,水素結合の形成はLUMOエネルギーを低下させ,Diels-Alder反応を加速することが知られている.天然に存在するDiels-Alderaseの場合では,触媒である蛋白質と基質2-ピロンとの水素結合が形成され,より反応性が加速されることが明らかになった.また,天然型Diels-AlderaseはDiels-Alder反応の直前の反応をも触媒し,Diels-Alder反応が最も起こりやすい活性化された基質を効率的な方位で活性部位にトラップし,自発的なDiels-Alder反応の進行を促進するという見解を得るに至った.
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