研究概要 |
鞭毛軸糸微小管上にはダイニン外腕が24nmごとに,7種存在する内腕はそれぞれが96nmごとに一列に規則正しく配列している.そのような規則性が生じる機構はまだほとんど明らかになっていない.本研究はダイニン配列機構を,その結合過程を直接観察することによって追求することを目的としている.まず,レーザー光を用いた全反射光学系を組み立て,蛍光標識したダイニンと微小管の相互作用の観察を行ったところ,ダイニン外腕と微小管の結合には協同性があることが確認された.さらに,ダイニン外腕を微小管へ結合させる因子ODA-DCを昆虫培養細胞中で発現した試料を用いて,その微小管結合性を定量化した.それと平行して,ダイニン内腕を微小管に結合させる因子の探索を行い,これまでウニ精子鞭毛などで見つかっていたテクチンと呼ばれる蛋白質がダイニン内腕のe亜種の結合に関与していることを発見した.テクチンは軸糸微小管の内部にあって,その縦方向の周期性を規定する重要蛋白質であると考えられていたが,ダイニンの結合性との関連が明らかになったのは,これが初めてである.また,蛍光標識したダイニン内腕サブユニットを生細胞の鞭毛内に電気穿孔法でとりこませてから鞭毛の小部分を光退色させる実験により,ダイニン内腕が数時間の半減期でダイナミックにターンオーバーしているという現象を発見した.これらの知見は,ダイニン内腕と外腕が軸糸微小管とどのように結合するかという問題に関して,重要な示唆を与えるものである.
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