研究概要 |
アスパラガス(A. officinalis)cv.Gold Schatzは,1966年に旧東ドイツから導入された品種で,北海道大学では栄養繁殖により2系統が維持されている。その一系統(以下GSMとする)の花を観察したところ,雄蕊が雌蕊化し,花被が緑色・小型化する形態変異を生じていることが分かった。 花器官の分化は,クラスA, B, CのMADS-box遺伝子が相互作用することにより決定されると考えられており,GSMの表現系はMADS-box遺伝子の機能異常によって生じたホメオティック変異であると推定された。そこで,GSMを含む数品種アスパラガスの擬葉からDNAを抽出し,クラスB遺伝子AOGLOA,AOGLOB,AODEFおよびクラスC遺伝子AOAG1,AOAG2をプローブとして用い,ゲノムDNAのサザンブロット解析を行った。また,花芽および擬葉からRNAを抽出し,ノーザンブロット法による発現解析を行った。さらに,遺伝子発現部位を特定するため,花芽の組織切片を作製してin situハイブリダイゼーションによる解析を行った。その結果,野生型およびGSMのサザンブロット解析では,クラスB遺伝子,クラスC遺伝子のいずれに関しても,検出されたDNA断片の電気泳動パターンに違いが見られなかった。一方,花芽のノーザン解析では,AOGLOA,AOGLOB,AODEFの発現は,野生型の花では検出されたが,GSMではきわめて弱いかあるいは全く検出されなかった。クラスC遺伝子は野生型とGSMで同程度に発現していた。さらに,in situハイブリダイゼーションの結果から,発育初期のGSM花芽では,AODEFおよびAOGLOBは発現しており,AOGLOAは発現していないことが明らかとなった。 以上の結果から,GSMの花における変異はクラスB遺伝子の機能不全が原因であり,AOGLOAの発現停止がAOGLOBおよびAODEFにおける転写低下の要因であると結論した。
|