研究概要 |
植物病原糸状菌Alternaria alternataに属するイチゴ黒斑病菌(イチゴ菌),リンゴ斑点落葉病菌(リンゴ菌)およびトマトアルターナリア茎枯病菌(トマト菌)の宿主に対する病原性を支配する染色体(病原性染色体)の比較解析から,病原性染色体上に,イチゴ菌とリンゴ菌では1遺伝子が共通するが,トマト菌とイチゴ菌・リンゴ菌では共通遺伝子が分布しなかった. イチゴ菌とリンゴ菌に共通する遺伝子(AFTS1:イチゴ菌およびAMT2:リンゴ菌と命名,共にaldo-ketoreductaseをコードする)に注目し,イチゴ菌におけるAFTS1遺伝子破壊株の作出と破壊株へのAMT2導入による相補性検定を試みたところ,破壊株はイチゴに対する病原性を失ったが,リンゴ菌AMT2導入発現によって破壊株のイチゴへの病原性を回復した.したがって,両菌の病原性染色体は共通な病原性遺伝子を少なくとも1個保存していると考えた. イチゴ菌では,epoxide hydrolase, polyketide synthase, acyl-CoA dehydrogenase, P450 monooxygenaseおよびoxidoreductaseが病原性に関与し,現在まで計16の病原性遺伝子が病原性染色体の約300Kbの範囲でクラスターを形成することを明らかとした.リンゴ菌では2遺伝子を,トマト菌では病原性染色体の約150Kbの領域に計13遺伝子を有する遺伝子クラスターの存在を同定した.リンゴ菌にはイチゴ菌と相同と考えられる病原性遺伝子AMT2が見出されたのに対し,トマト菌のこの領域では他の2菌に対する相同配列が全く見出せなかった. 以上の結果から,病原性染色体の起源はイチゴ菌とリンゴ菌では共通の祖先型染色体に由来するが,トマト菌では異なる起源が推測され,植物病原菌における病原性分化の研究に大きな成果を加えた.
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