研究課題
基盤研究(B)
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)-Edgシステムの病態生理的意義の解明を目的として以下のインビトロ及びインビボでの成果を得た。S1P-Edgシステムによる二方向性細胞運動制御の分子機序を検討し、Edg1とEdg3はGiを介してRacを活性化し細胞運動を促進するのに対し、Edg5はG12/13、Rhoを介してRacを制御し細胞運動をすることを見い出した。S1Pは傷害血管新生内膜細胞における血管平滑筋増殖因子PDGF産生を促進した。この作用は、Edg1(=S1P_1)受容体を介し、Gi-Ras-ERK/p38MAPKからなる情報伝達経路に依存した。さらに、ERK/p38MAPKは血管平滑筋形質転換に重要な役割を果たす転写因子KLF5を誘導し、PDGF遺伝子の転写を活性化することを見出した。この他に、Edg5(=S1P_2)及びEdg3(=S1P_3)を介したRho-Rhoキナーゼ経路の活性化もPDGF発現に寄与した。Edg5は血管平滑筋細胞において強力にRhoを活性化し細胞運動を抑制することを見出していたが、Edg5によるRho活性化が一般に知られている三量体G蛋白G_<12/13>の他にG_qを介することを見出した。S1Pが血管内皮細胞に発現しているEdg1、Edg3を介して細胞遊走、細胞増殖を促進し血管新生を誘導することが示されているが、少なくとも一部の内皮細胞にはEdg5も発現しており、Edg5はEdg1、Edg3とは逆に細胞遊走を抑制して血管新生の抑制を引き起こすことを見出した。Edg1トランスジェニック(TG)マウス、S1P合成酵素スフィンゴシンキナーゼ(SK)TGマウスなどを用いて、個体レベルでのS1P-Edgシステムの血管新生、血管リモデリングなどに及ぼす作用を検討した。Edg1作用の増強、S1P合成の亢進は心血管ホメオスターシスに影響し、心血管の生理機能に変化をもたらすこと、また病態生理において役割を担うことが示唆された。
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