研究概要 |
皮膚を冷却すると,冷受容器がインパルスを脳に向けて出し,その皮膚が冷たいとの感覚が生まれる。冷受容器の実体は何か。また,いかにして冷却した皮膚に冷感が生じ,それが体温調節行動に結びつくか。これらを明らかにするため,1950年代に動物を使った電気生理学的な実験が行われた。しかし,受容器の実体が分からなかったので,受容器が神経の終末にあるのかどうか物質レベルで確認されていなかった。 最近,皮膚温の上下に反応する温(熱)受容器・冷受容器の候補として,TRP(Transient Receptor Potential)ファミリーに属する非選択的カチオンチャネルの遺伝子6種類が感覚細胞から得られた。これは,温度感覚や体温調節の研究が新たな段階にはいったことを示す。 しかし,温(熱)・冷受容器の候補が,皮膚の神経終末に実際に発現して,温感や冷感を起こすかどうか明らかでない。本研究では,冷受容器のひとつTRPM8の抗体を作成して,感覚細胞やその神経終末におけるTRPM8タンパク質を免疫組織染色法で検出した。 その結果,感覚細胞の細胞体がある三叉神経節,および舌にある感覚細胞の神経終末にTRPM8受容体が発現していることが分かった。これは,TRPM8が体表面にある冷受容器として実際に機能することを示すはじめての仕事といえる。 舌を加温,冷却すると,甘さ,苦さの感覚が生まれることが知られている。しかし,TRPM8の神経終末は,味覚受容器がある舌の味らいには,投射していなかった。これは,TRPM8受容体は,味覚の温度感受性とは別であることを示す。つまり,味覚の受容器そのものが温度感受性を持つことを示唆する。
|