研究課題
基盤研究(B)
ATP-binding cassette (ABC) superfamily分子は、細胞膜ポンプとして代謝副産物あるいは外来性物質の排出に重要な役割を果たしていると考えられ、数種の寄生虫においてもその存在が分子生物学的には確認されている。しかしながら、多細胞生物としての寄生虫では、その組織局在が不明であった。ABC分子に分類されるP-gp (P-glycoprotein)およびMRP (multi-drug resistance-associated protein)に注目し、その蛍光性基質となるresorufinやfluo-3を用いて、マンソン住血吸虫の各生活期について、これらの分子の表出組織と時期を検討した。その結果、P-gp/MRP両分子は、原始腎(protonephridium)すなわち排泄系上皮に局在し、蛍光基質を能動的に管内に排出・集積することが確認された。P-gp/MRPの排泄系表出は、2週齢以降の成虫期でのみ確認され、セルカリアあるいはシストソミューラ期では見られなかった。同様の観察手技を多包条虫(エキノコックス)および原虫トリパノソーマ(Trypanosoma grosi)に応用し、これらでのP-gp/MRP表出の可能性を探った。多包条虫では幼虫期(原頭節)においてのみ、住血吸虫と同様の排泄管への蛍光基質の集積が確認され、トリパノソーマでは細胞への蛍光基質の取り込みが起こらなかった。これらの基質は単純拡散により寄生虫に取り込まれることを考えると、トリパノソーマではP-gp/MRPによる排泄が観察限界を超えて、早期に働いている可能性も残っている。上記の観察結果を確認するために、それぞれの基質に対する競合剤に虫体を前もって暴露したところ、蛍光基質の排泄系の集積は起こらなかった。このことから、寄生性扁形動物である住血吸虫とエキノコックスの特定の生活ステージにおいて、排泄系上皮にP-gpならびにMRP相同分子の表出があり、これらが薬剤を含めた外来物質の体外排泄に重要な役割を果たしていることが示唆されることになった。P-gpならびにMRP相同分子の分子生物学的な特徴づけに取り組んでいるが、現在までのところではまだ完了していない。
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