研究概要 |
[研究背景・目的]多発性硬化症(multiple sclerosis ; MS)は中枢神経系白質に炎症性脱髄巣が多発し軸索傷害を来して進行する難病である。MS発症は遺伝的要因と環境因子の相互作用により規定されている。MSは臨床経過からrelapsing-remitting MS (RRMS), secondary progressive MS (SPMS), primary progressive MS (PPMS),病巣分布からconventional MS (CMS), opticospinal MS (OSMS), 治療反応性からinterferon-beta (IFNB) responder, nonresponderに分類される。病理学的にもT細胞湿潤、抗体・補体沈着、oligodendrocyte apoptosis, axonal degenerationなど多様な所見を呈する。中枢神経系グリア細胞由来の因子:astrocytes(AS)の形成するグリア瘢痕、脱髄時にoligodendrocytes(OL)から遊離する軸索伸長阻害因子Nogo, microglia(MCG)の産生するproinflammatory cytokinesは髄鞘再生や軸索伸長を阻害する。MSではIFNBが再発抑制の治療薬として用いられているが作用機序は十分解明されておらず、神経学的後遺症の回復には無効であり、髄鞘再生や軸索伸長促進を目指す再生医学的治療法開発が切望されている。またMSは臨床症状・経過・MRI所見に基づき診断がなされるが、他疾患との鑑別が必ずしも容易でない。臨床的利便性の観点から血液を用いた正確かつ迅速な診断法の確立が必要である。本研究では(1)DNAマイクロアレイによるMS疾患特異的遺伝子群の同定および新しいMS診断法の確立、(2)MSにおけるIFNB responder, nonresponderの識別法の樹立、(3)ASによるグリア瘢痕形成の分子機構の解明、(4)MS病態におけるNogoの役割の解明を主目的とした。 [方法・結果・結論]項目(1,2)に関してはDNAマイクロアレイ解析により健常者に比較しMS患者末梢血リンパ球でアポトーシス制御遺伝子群の発現異常を認めることを発見した。またMSはTリンパ球の遺伝子発現プロフィールに基づきA, B, C, Dの4群に分類され、IFNB responderはA, B群に集中していることを報告した。項目(3,4)に関しては免疫組織化学的解析により、MS病巣に出現する反応性ASは14-3-3 epsilon isoformを高発現することを発見し、培養ASのプロテオーム解析により14-3-3がvimentin, GFAPと結合していることを報告した。また研究の過程で14-3-3は培養神経細胞ではheat shock protein (HSP60), cellular prion protein (PrPC)とmolecular complexを形成していることを発見した(投稿中)。さらにMS慢性活動性脱髄巣ではOLがNogo-Aを、AS, MCGがNogo receptor(NgR)を高発現し、Nogo-A/NgRを介するinteractionの存在の可能性を示唆した。以上の研究結果より、MSにおける再生医学的な新しい治療法として、siRNAを用いた14-3-3発現抑制や14-3-3inhibitor Difopeinを用いた14-3-3機能抑制によるグリア瘢痕形成阻止や、ヒト化Nogo-A/NgR中和抗体による軸索再生促進療法の開発が今後重要な研究課題となると思われる。
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