配分額 *注記 |
9,500千円 (直接経費: 9,500千円)
2005年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
2004年度: 3,100千円 (直接経費: 3,100千円)
2003年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
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研究概要 |
近年のがん研究は様々な分子細胞現象を包含し,細胞内シグナル伝達など広範な生命現象の解明へと多様化している.Wntシグナルは個体発生と細胞・組織分化を司る基幹的情報伝達系であり,その制御機構の破綻は大腸発がん進展過程を促進する.このシグナル指令の実行分子が細胞接着因子として発見されたβ-cateninである.本研究において我々はまず,大腸癌の浸潤先進部におけるβ-cateninの活性化が発がんから浸潤・転移に至る経路をリンクし,がん病態,治療感受性や術後生存率に影響する重要ながん化シグナルであることを約300症例の解析から見出した.細胞内局在に依存するβ-cateninの細胞接着と情報伝達機能はユビキチンシステムにより制御されている.そこで我々は,β-cateninとIκBαを認識するE3ユビキチン連結酵素β-TrCPを同定し,その発現誘導はWnt/β-cateninシグナルに依存することを示した.このユビキチン経路の異常に起因して,大腸癌におけるβ-cateninとβ-TrCP発現のnegative feedback制御の破綻がWntシグナルとNF-κB経路をリンクして癌細胞のアポトーシスを抑制し,がんの浸潤や転移を促進することを明らかにした.つぎに,Wntシグナルによるβ-TrCPの発現誘導はそのmRNA安定化によることと,これに作用するβ-catenin/Tcf転写複合体の標的分子Xを同定した(投稿中).Xはc-mycやIGF-IIのmRNAを安定化する既知のRNAトランス因子であることから,大腸癌においてXが過剰発現する結果として複数の細胞生存・増殖シグナル(Wnt/β-catenin, NF-κB, c-Myc, IGF-II)を統御し,発がん・進展を加速するがん標的であることを想定し,今後の主要な研究対象として位置づけた.このように本研究を通じて,大腸癌の発生進展に関わるシグナル伝達系の新しい分子細胞メカニズムの解明に立脚するがん制御のための基盤成果を得た.
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