研究課題
基盤研究(B)
有病率の非常に高い頚椎症性脊髄症など、慢性脊髄圧迫病態における神経栄養因子の変化は、従来研究報告が見られなかった領域である。そこで私たちは、われわれ自身が開発したラット慢性脊髄圧迫モデルを用いて、運動ニューロンとその周囲環境におけるBDNFならびにNGFの変化の導体を解析した。背髄に対する圧迫は薄い膨潤性ポリマーシートをC5/6椎弓の下に留置することでおこない、急性脊髄損傷ならびに運動障害を起こすことなく慢性的圧迫を導入できる。圧迫導入後、17週の潜時をおいて歩行運動障害が緩徐進行性に出現、またそれに先立って、9週より運動ニューロンの減少が認められる。慢性脊髄圧迫動物モデル、ならびにシャム手術を施したコントロール動物群において、圧迫部位であるC5/6ならびにその上下分節のC4ならびにC7において、これらの神経栄養因子の動態を調べた。25週後に、BDNFは、C5/6レベルの運動ニューロンにおいて、その発現が増大しているのが認められた。それに対して、βNGFの発現はこれら頚髄分節の全般にわたって低下しているのが認められた。圧迫後9週では、前角運動ニューロン周囲のグリア細胞内において非常に強いBDNF活性が発現していることが認められた。こうした結果は、BDNFの発現が、運動ニューロンの生存維持と運動機能の改善維持のために増強していることを示唆するものである。それに対してNGFはこの病態においては、運動ニューロンのアポトーシスを誘導する経路に関与している可能性が示唆された。
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Ann Neurol 55
ページ: 503-511