研究概要 |
前立腺癌の発症要因には、外的な要因と内因的な要因の両者が関与しており、この中で、遺伝的素因はかなり有力な因子として認識されている。家族歴をもつ患者では約2-3倍のリスクがあるといわれており、群馬県でも遺伝的素因の強い家系の同定がなされている。疾患に対する責任遺伝子にはハイリスク遺伝子と低リスク遺伝子の2種があり、大腸がんや乳癌ではハイリスク遺伝子の同定がなされた。これに対して、前立腺癌は環境因子などの外的要因の関与が強いために、なかなかハイリスク遺伝子の同定が困難な状況にある。こうした中で、低リスク遺伝子、いわゆる疾患感受性遺伝子の遺伝子多型は外的な要因との架け橋になる可能性があるため、われわれは、低リスク遺伝子の遺伝子多型を包括的に検討してきた。方法論的には、PCR-RFLP法、SSCP法、direct sequencing法を駆使し、多くの遺伝子多型を検討して来た。これらの関連する疾患感受性遺伝子の多型を統計解析することにより、癌の発症、癌の進展、病理所見に関与する遺伝多型の同定を行った。遺伝子多型という点から、RNASELおよびHPC2/ELAC2の多型も含めた。低リスク遺伝子では、AR cagリピート、ER alpha,p53,CYP17,CYP19,Cyclin D1,CYP1A1,CDKNA1,IGFBP3,XRCC1,GSTP1,T1,M1,COMT,UGT2B15,VDR,SRD5A,PRなどを含めた多くの遺伝子多型を検討した。この結果、発症リスクとは、RNASEL Asp541Glu、HPC2/ELAC Ala541Thr、p53codon 72 Arg/Pro、CYP19[TTTA]n、CyclinD1 A870G、CYP1A1 M1+M2,CDKNA1 C/T,IGFBP3A/A,XRCC1 Arg399G1n、GST p1,T1,M1,ER+CYP19+COMTの組み合わせ多型、UGT2B15 D/Y,UGT2B15+CYP19の組み合わせが関連した。臨床病期とはRNASEL Asp541Glu,p53 codon72 Arg/Pro,Cyclin D1 A870G,CYP1A1 M1+M2が関連した。病理所見とはRNASEL Asp541Glu,p53codon 72 Arg/Pro,IGFBP3 A/A,CPY1A1 M1+M2が関連した。以上の結果を踏まえて、この疾患の発症リスクや治療アウトカムを考慮に入れた遺伝子相談や治療方針決定も可能になる可能性が開けた。
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