研究課題
基盤研究(B)
材料の生体親和性は材料表層の物理・化学的物性に強く依存する。一般に金属の窒化物や炭化物は元の金属に比べて化学的に安定で、生体適合性も高いと考えられている。また金属は通常、結晶質であるが、一部の金属では溶融状態から超急冷することにより非晶質化することが知られており、非晶質金属では結晶質の場合と比べて種々の特性が向上することが知られている。近年、歯科用としても普及してきた高出力のレーザーを用いると、非接触で局部のみを急熱・急冷することが可能となり、通常の熱処理に比べて表面のみを限局的に処理することが可能となる。そこで本研究では、第一に各種金属試料表面にNd-YAGレーザーを雰囲気・照射条件を変化させて照射し、その表面性状や状態の変化を調査した。その結果、チタンにおいては窒素雰囲気中で照射することにより、表面にごく薄い窒化チタン層を形成することが可能であることが判明した。窒化チタンは硬度が高く、耐摩耗性に優れるため、レーザー照射により任意の部位に窒化チタンを形成することにより、耐摩耗性が要求される部位のみに処理を施すことが可能であることが判明した。さらに生体内での金属材料の耐食性や生体適合性、溶出金属元素の生体内での化学状態を調べる観点から、金属インプラント周囲の軟組織をX線分析顕微鏡を用いた元素分布測定および放射光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)測定により評価した。チタン及びニッケル埋入部周囲の生体軟組織中には各元素の溶出が明瞭に観察され、XAFS測定からチタンは金属粉末または酸化物として分布し、ニッケルは水和イオンに近い状態で分布しており、この状態の差がチタン及びニッケルの生体親和性に関係していると推定された。この分析手法は放射光によるXAFS測定を生体内微量元素の測定に応用しており、XAFS測定が生体内の微量元素の状態分析に極めて有効であることが示された。
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