研究課題
基盤研究(B)
癌に対する生体防御機構の一つとしてT細胞を中心とした免疫応答が重要な役割を担っていると考えられている。本研究の目的は、口腔扁平上皮癌に対する抗腫瘍T細胞のT細胞レセプター(T cell receptor:TCR)およびその認識抗原を同定し、その中でも特に抗腫瘍T細胞の活性化あるいは不活化に関わる扁平上皮癌関連抗原を同定することであり、得られた研究実績は以下のとおりであった。1.免疫応答を調節する口腔扁平上皮癌関連抗原の検討免疫応答を調節する分子として、HLA抗原であるクラスIおよびII抗原、共刺激分子であるCD80、CD86、接着分子であるICAM-1を、癌関連抗原としてはRCAS1に注目し、口腔扁平上皮癌による発現を検討したところ、HLA抗原の発現異常はみられなかったが、CD80、ICAM-1、RCAS1の発現亢進がみられた。間質反応が強い症例ではCD80とICAM-1の発現亢進が高頻度にみられ、RCAS1の発現がみられた症例の腫瘍周囲にはアポトーシスを起こしたリンパ球が高頻度にみられた。このRCAS1の発現機構に注目して解析をしたところ、T細胞由来のサイトカインが重要な役割を果していることが明らかとなり、さらにT細胞によって発現が誘導されたRCAS1はT細胞のアポトーシスを誘導することも判り、癌細胞と宿主間の複雑な相互作用が存在することが判明した。このように、癌細胞による免疫応答調節機序が明らかとなり、抗腫瘍ワクチン療法などの免疫療法の有効性を高めるためには、この癌細胞の働きにも配慮する必要性が示された。2.口腔扁平上皮癌に対する抗腫瘍T細胞が発現するTCRおよびその認識抗原の同定担癌患者の末梢血単核球にSART-1_<690>の抗原ペプチドを加えて培養すると細胞障害性T細胞が誘導できた。すでに報告されている他の12種類の癌関連抗原についても検討したが、SART-1_<690>が最も高頻度に細胞障害性T細胞が誘導できた。SART-1_<690>刺激で誘導されるT細胞のTCR Vβ遺伝子を解析したところ、生検腫瘍組織内で強く発現されているTCR Vβ遺伝子と同一のものが含まれていた。さらに、担癌患者の末梢血単核球を自家癌で刺激しても細胞障害性T細胞が誘導でき、発現するTCR Vβ遺伝子には同様のTCR Vβ遺伝子と同一のものが含まれていた。このように、SART-1_<690>は多くの口腔扁平上皮癌で発現されている最も普遍的な癌関連抗原であることが示された。現在、SART-1_<690>を認識する抗腫瘍T細胞が発現するTCR遺伝子をクローニングしている途中であり、クローニングが終了すればSART-1_<690>を用いた抗腫瘍ワクチン療法の改良や効果判定に役立っと期待できる。
すべて 2006 その他
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Journal of Oral Pathology & Medicine 35
ページ: 361-368
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