研究概要 |
歯の健康な日本人50人(男性28名,女性22名)の静脈血を,すでに承認を受けた大阪大学歯学部倫理委員会の規定に基づき採取し,ゲノムDNAの抽出を行った。歯に特異的で,エナメル質形成に重要と考えられているアメロブラスチン,エナメリン,エナメライシン遺伝子のうちアメロブラスチン遺伝子に関しては50人分全てのゲノムDNAに関してダイレクトシークエンスとPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism)法によってポリモルフィズムに関するデータの採取を完了し,解析を行った。その結果,日本人のアメロブラスチン遺伝子には現在までにデータが公開,されているスウェーデン人と重複したポリモルフィズムの他に,スウェーデン人には認められない新しいポリモルフィズムが存在することが明らかになった。これによって,日本人を中心としたアジア人におけるアメロブラスチン遺伝子のポリモルフィズムの検討は達成された。また,3人のエナメル形成不全症患者から静脈血の採取あるいは口腔粘膜のスワブを行い,ゲノムDNAの抽出後,現在,アメロブラスチン,エナメリン,エナメリシンに関してダイレクトシークエンスを行い,解析を行った。このうちの1人に核酸3塩基の欠失が認められたが,これは日本人に特有のポリモルフィズムと同様であった。現在までに,エナメル形成不全症の原因と推測できるような変異は確認されていない。これらの結果により,エナメル形成不全症の原因の探査には遺伝子の翻訳領域のみならず,プロモーター領域の探査も必要なことは示唆された。また,現在,原因遺伝子として注目されてきたカリクレイン4やDLX3などの検討も必要かもしれない。
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