研究概要 |
ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus, HPV)は,子宮頚部,性器,肛門などの癌の発生に関与している.しかし,食道癌,肺癌においては腫瘍組織からのHPVの検出率が地域,施設によって著しく異なり,腫瘍発生との関係は不明である.本研究では,日本,アジアの食道癌,肺癌におけるHPVの頻度を明らかにし,食道癌,肺癌におけるHPV感染の意義,腫瘍発生への地理病理学的因子の影響について検討した. 日本(4施設;東京,高知,鹿児島,沖縄),韓国(2施設),台湾(1施設),シンガポール(1施設)から肺癌,食道癌のホルマリン固定パラフィン包試料(総計483検体)を収集し,ISH, PCR法を併用しHPVの有無について検討した. 肺扁平上皮癌(174例),肺腺癌(127例),食道癌(182例)において,各々6.9,7.1,8.8%と低頻度ではあるが,HPVの存在が確認された.しかも陽性となった症例では,ISHで一部の腫瘍細胞にのみ陽性シグナルが検出されたことから,このようなHPVの存在様式が感染率の違いの原因になっている可能性がある. 陽性率を日本,台湾,韓国を比較すると,肺扁平上皮癌では8.1,8.6,5.6,0%であった.肺腺癌では,5.0,7.1,13.3,0%であった.食道癌でも,日本,台湾,韓国の陽性率は,10.5,8.0,6.4%であった.各国における頻度に有意差はみられなかった. HPV高危険度群亜型のHPV16/18型感染が,肺扁平上皮癌,肺腺癌,食道癌の陽性例で各々75%,78%,81%であり,いずれの癌においても一定の症例においてHPVが癌発生の初期に関係しているものと推定された. 日本国内での地域差を検討すると,食道癌において鹿児島での頻度24.1%(7/29例)が最も高く,統計学的に有意であった(P=0.01).肺扁平上皮癌,肺腺癌には地域差はみられなかった.沖縄での肺扁平上皮癌でのHPV陽性率は急速に低下していると言われ,今回の結果もそれを裏付けるものであった.
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