研究概要 |
西ベンガル州立伝染病院に重症下痢症患者として入院した成人と小児由来の776検体から、2株のCdt-I産生性大腸菌を分離した。2株とも、EPECの病原因子であるeae, bfp, EAFが陽性であり、1株の血清型はO142でもう1株は現在解析中である。さらに、レトロスペクティブな解析も含めて、583株の大腸菌についてcdt-IIとcdt-IIIの両方を検出できるcdt-III遺伝子プローブを用いて調べたところ全てで陰性となった。しかしながら、バングラデシュで分離された大腸菌1,400株について調べたところ、3株でcdt-III遺伝子が陽性となった。この3株の血清型も現在解析中である。インドにおいて環境中から分離した大腸菌34株及び尿路病原性大腸菌38株についてもcdt遺伝子の有無を調べたが、全てで陰性であった。分離されたCdt-I産生性大腸菌のeae遺伝子の型別を行ったところ、O86aはalphaタイプ、O127aはbetaタイプであった。O142の場合は、1株を除いて全てがalphaタイプであった。残り7株は、7種類のどのタイプにも属さなかった。インドで分離されたCDT産生性大腸菌について、7つのハウスキーピング遺伝子、aspC, clpX, fadD, icdA, lysP, mdh and uidA遺伝子を用いたMultilocus sequence typingを調べたところ、O86とO142は他の下痢原性大腸菌のどのタイプにも属さないユニークなものであった。O127に関しては、EPECのあるタイプに属することがわかった。一方、我が国の血性下痢あるいは水様下痢症患者から分離された大腸菌について、レトロスペクティブな解析を行った結果、1株でcdt-I遺伝子が陽性となった。しかも、この患者の臨床症状は、血性下痢で腸重責を呈していた。血清型を調べたところ、O2:H12とインドで分離されていたEPECタイプと異なり、EPECの病原因子は保持していなかった。以上の結果より、インドやバングラデシュでは、EPECにcdt遺伝子を獲得したタイプ、特にO86やO127が高頻度に分離されること、その87%は小児由来であり、血液が便に混じったものが多いことがわかった。また、我が国でもCDT産生性大腸菌が小児の下痢症に関わっており、開発途上国とは異なるタイプである可能性が示唆された。
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