研究概要 |
本研究の目的は,照明環境や観測の幾何学的条件に依存しない高精度で安定した物体の認識手法の開発とシステムの実現である.このために,まずマルチチャンネルの高機能ビジョンシステムを製作した.次にマルチチャンネルの多次元画像データから物体表面の反射特性を推定するアルゴリズムを開発した.そして物体表面反射率の分光情報から物体を認識するためのアルゴリズムとシステムを開発した. 本研究では,3次元光反射モデルに基づいて分光反射率といったスペクトル情報を推測する.このためにRGBの3センサよりもセンサの多いマルチバンドカメラを制作した.このカメラは液晶フィルタ,カラーフィルタ,モノクロCCD冷却カメラ,およびパソコンを組み合わせたシステムとして実現している.ビジョンシステムの特徴は適切な波長バンドで高分解能の分光画像が獲得できることである. この方式は照明光と反射率を分離して抽出するため,処理は安定で推定精度も高い.また有限次元線形モデルで記述するので分光データの大幅な圧縮が可能で,通常のカメラデータと比べても,データ量はさほど増大しない.このような技法で物体表面に固有の分光反射率が推定でき,これに基づいて照明環境と観測条件に依存しない物体の識別が可能となる. また,表面分光反射率が既知となれば,任意の照明環境と観測条件下での物体のレンダリングが可能となる.実際,絵画を記録・保存・再現するディジタルアーカイブ研究に取り組み,分光反射率の利用は極めて有効であることがわかった.すなわち,物体認識のみならず,VR・CGで物体の見えを任意条件下で映像化する手法を明らかにした.
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