研究概要 |
本研究では,高臨場感音場の再現を指向したAVコンテンツ視聴環境の構築における,広空間領域での音声の提示手法に関する指針を得ることを目的とし,マルチメディア環境下での,映像と音像の大きさ知覚および提示時間差の効果について検討した.まず,映像の大きさの印象に対する等価音圧レベル(映像刺激の大きさに相当すると知覚される音声刺激の音圧レベル)について調査を行った.その結果,中心領域に比べ周辺領域の方が,等価音圧レベルは小さかった.すなわち,中心領域より周辺領域の方が,音声の印象が強いと知覚され易かった.ただし,映像が大きくなると,中心領域と周辺領域での等価音圧レベルはほとんど等しくなった.次に,AVメディア間の提示時間差に関する順応効果に着目し,短時間の視聴覚刺激(順応刺激)を一回提示した際の順応効果について検討した.その結果,テスト刺激(順応効果量を測るための刺激)における映像と音声の時間差が30msと110msの場合については順応効果が観察された.しかし,被験者によって,順応しやすい人と順応しにくい人が存在し,個人差の影響が大きかった.今後,個人差を考慮した検討が必要であると考えられる.また,低受聴明瞭度環境下における,音声及び映像の遅延が単語認識に与える影響について調査を行った.その結果,±4F(フレーム)以上の音声遅延は,視覚情報が単語認識の妨げとなるが,±32Fの音声遅延のように,映像と音声それぞれが完全に独立するほどの大きなずれの場合には,視覚情報が単語認識の妨げとはならないということがわかった.さらに,音の大きさ知覚に関する聴覚増強作用について調査を行った.ここでは,先行音を対象耳の反対側の耳(交互耳)または同じ側の耳(同側耳)に提示した場合の,最小可聴値の変化を調べた.その結果,先行音を交互耳に提示した場合,最小可聴値は有意に低下した,すなわち感度が上昇した.その効果量の平均値は約2dBであった.また,先行音の音圧レベルが増加すると,聴覚中枢系の感度上昇作用は増加した.以上の知見は,今後のAVコンテンツ視聴環境の構築に有効であると考えられる.
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