研究概要 |
本研究は行為/出来事と空間との関わり方を言語表現を通して分析することを目的とする.ここでは空間の果たす役割を,個体の位置づけの基準点,出来事の位置づけの基準点,行為の位置づけの基準点,行為の対象,の4つに大別して考える.「新聞がテーブルの上にある」,「書斎で手紙を書く」,「テーブルの上で手紙を書く」,「テーブルの上を見る」が各々の例である.出来事の位置づけと行為の位置づけは似ているが,前者では行為に関わる要素(「行為者」と「手紙」)が全て同一の空間(書斎)にあるのに対して,後者では行為に関わる要素の一部だけがその空間にある(「手紙」はテーブルの上にあるが「行為者」はテーブルの上にいない)点で異なる. 行為の位置づけの基準点となる空間は,しばしば道具的性格を帯び,道具と場所の境界が問題になる.例えば,「スポンジで食器を洗う」の「スポンジで」は典型的な道具であるのに対して,「バケツ(の中)で雑巾を洗う」の「バケツで」は行為への関わり方が異なり,典型的な道具とは言えない.(これを道具とするかどうかは定義次第である.)「バケツの中で」は行為の位置づけの基準点であり,道具的性格はさらに少なくなるが,それでも一定の道具的性格は感じられるように思う. 空間を行為の対象とみることがどこまで可能かは言語によって異なる.例えば「どこを見ているのですか」に対応するフランス語"Ou regardez-vous?"は可能であるが,このようにoh ‘where'を直接目的語にとる動詞は極めて例外的である.もちろん,行為の対象を「場所」ではなく「もの」としてとらえ,「どこ」を「なに」‘que'に変えれば,フランス語においても問題はなくなる. 本研究では以上のような問題意識にもとづき,日本語とフランス語を中心に,ドイツ語,中国語も一部交えた対照研究を行った.
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