研究概要 |
本研究では,生後2-8ヶ月の乳児を対象に,皮質の成熟と視覚発達との関連を探るための実験,主に,:運動視・形態視・陰影情報などを用いる奥行き知覚,色誘導による色の知覚,視線知覚,顔知覚の実験を行った。また,脳の局所的な血流量を測定できるNIRSを用いて,乳児の顔知覚に関与する脳活動を測定した。これら一連の研究により。乳児の視覚認知発達に関して多角的かつ統合的に分析し,ヒトの視覚系の初期発達の過程についての一考察を提案することができた。 運動視:生後2-3ヶ月では,縮小運動に対してのみ急激な運動コヒーレンス感度の上昇が観察された。一方で,生後5ヶ月児では陰影情報からの形態知覚が可能で,運動透明視に対する感度が成人の感度と同じであることが示唆された。 キャストシャドウによる3次元知覚:生後7ヶ月児がキャストシャドウによる3次元情報を手がかりとして奥行き知覚を行なっていることが示された。 顔の知覚:生後6-8ヶ月児が滑らかに顔の向きが回転する運動では新奇な斜め横顔を識別することができた。さらに,NIRSを用いた研究から,顔を正立と倒立で提示したところ,正立顔のみ右半球の血流量が増加し,乳児でも顔の処理過程の右半球優位性が明らかになった。 視線認知におよぼす3次元情報の検討:8ヶ月児は成人と同様に顔の向きを含む全体的な処理によって視線方向を認知するという結果を得た。 色知覚:背景色と比較して色を知覚する能力は,生後5ヶ月で機能しはじめ,生後7ヶ月で成人と同様のものとなることが示された。 形態知覚:モーダル知覚は生後3・4ヶ月,アモーダル知覚は生後5-6ケ月に成立すること,また透明視の知覚が3・4ヶ月で成立することから,モーダル補完の知覚と透明視の発達時期が一致することが判明した。また生後5-6ヶ月頃から遮蔽に伴う補完知覚が運動方向の知覚に影響することが示された。 運動透明視の知覚:運動透明視の知覚は,3ヶ月ごろから発達しはじめ,5ヶ月でほぼ大人と同じ程度にまで急速に発達することが明らかとなった。
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