研究概要 |
高次漸近展開は,複雑な統計モデルにおける統計量の分布の近似公式を系統的に導き,また漸近有効性などの高次漸近理論にとって不可欠であるばかりか,情報幾何などの新しい数理的視点を誘導することが,独立標本モデルや時系列モデルにおいてはよく知られている. 連続時間径数をもつ確率過程に対しても,小さな拡散モデルなどの一部のモデルについて,漸近展開をもちいた高次漸近理論が展開されているが,本研究では,統計量がミキシング性を持つマルコフ過程の汎関数で近似できる場合について,高次漸近展開を導出し,その典型的で最も有用な例として,M推定量の3次の漸近展開を求めた. また,M推定量が最小コントラスト推定量である場合,いわゆるバートレットの関係式が成り立てば,漸近展開の係数は,情報幾何的な定数で与えられることも明らかにした.これらの結果は,時系列のような離散時間径数を持つ確率過程やジャンプを持つ拡散過程などに応用可能であるが,本研究では連続な拡散過程に対するM推定量の漸近展開を導いた.その結果は,モデルの特定に失敗した場合も含んでいる.さらに,M推定量の漸近展開を導くのと同様な方法で,局所対立仮説に対する対数尤度比が,ミキシング性を持つマルコフ過程の汎関数で近似できる場合について,その高次漸近展開を求め,ある正則条件のもので最尤推定量の2次有効性を証明した.この結果ほ,連続時間径数,離散時間径数を問わず,多くの確率過程に応用可能であるが,特に連続な拡散過程に対してそのことを証明した. このように,確率過程を含む多くのモデルに対して,高次漸近理論のための基本的な道具の導出に成功したが,その結果が含まない数少ないモデルとして,線形な係数を持っ拡散過程がある.このような例外的なモデルに対して,漸近展開の正当性についてグローバルアプローチとローカルアプローチを併用することで証明に成功した.これにより,応用上重要なほとんどすべての拡散過程に対する統計量の漸近展開が求められたことになる.
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