研究概要 |
確率場X(t),t∈Iの最大値の分布(上側確率)Pr(max x (t)>a)を近似するための積分幾何学的方法としてチューブ法とオイラー標数法が知られている.本研究課題では,これらの方法の特性の理論的解明ならびにその多重比較(主としてゲノムデータ解析)への応用を試みた. (i) 平均,分散が不均一な正規確率場の最大値分布の近似をチューブ法,オイラー標数法によって与えた.またその近似式の正当性を示した. (ii) 平均,分散が均一な正規確率場の最大値分布におけるチューブ法,オイラー標数法近似の誤差の正確なオーダーを,添字集合Iが定義する添字多様体の自己交差が大域的,すなわち臨界半径が大域的に達成されるという条件の下で明示的に与えた. (iii) Aを与えられた直交不変なランダム行列とするとき,確率場X(h)=h'Ahにオイラー標数法を適用することにより,ランダム行列Aの最大固有値の分布の近似とその誤差評価式を与えた.ウィシヤート行列,多変量ベータ行列,逆ウィシヤート行列などの多くの一般的なランダム行列について,オイラー標数近似式の誤差は微小量であることが分かった. (iv) イネの致死遺伝子の探索問題や,QTL(量的形質遺伝子座)解析において,多重検定の有意性を調整する方法を検討した.ロッドスコア(検定統計量)は複雑な相関関数を持ったカイ2乗確率過程と捉えることができる.オイラー標数法に基づいて,ロッドスコアのp値の多重性調整(閥値設定)を簡便に行う方法について検討した. (V) 上で扱ったような遺伝子探索問題において,2つの遺伝子座の相互作用(エピスタシス)を検出するためには,2つの添字を持ったカイ2乗確率確率場を取り扱う必要がある.マーカー間隔が小さい場合には,連鎖によって,その確率場は,多くの場合直積型Ornstein-Uhlenbeck相関構造を持つカイ2乗確率場となる.ここではマーカーが等間隔であるという近似の下で,確率場の最大値の分布(多重性調整p値)の大偏差型の近似を与えた.
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