研究概要 |
本研究では,ミツバチの視覚学習に関して微小トルク計による行動計測及び電気生理実験による細胞応答計測を行い,学習の獲得・想起に対して視覚目標の位置,サイズ,提示タイミング,動きなどが及ぼす影響を測定することを目標に新たな行動実験プロトコルの提案,および,視覚刺激に基づく飛翔行動制御の数理モデルを構築し,視覚刺激情報と実際の飛翔行動との関連について解析を進めた.本研究では,以下のような興味深い新たな知見と共に今後の課題が明らかになった. ●テザード飛行状態において視覚刺激(条件刺激)と報酬である餌(無条件刺激)を連合して与えることによって,視目標に対するアテンションの変化を生じさせるという新しい条件付け実験プロトコルを提案した. ●無条件刺激として熱刺激(忌避刺激)を与えた学習を比較した結果,この刺激に対する記憶は報酬刺激を与えた場合の学習に比べて保持時間が極めて短く一過的であることが示された. ●条件刺激として提示する視覚刺激に関して,縦方向に位置をずらせると異なる刺激として認識している可能性が示された.これはハエを用いた実験でHeisenbergらが示した結果と同様であり,少なくとも我々の条件付け実験環境下では縦方向の位置普遍性はないと考えられる. ●音刺激を提示した場合に,音源の周波数成分によって定位状態が異なることが示された. ●自由飛行下で餌場を記憶させた個体に関して視運動反応特性を計測し,テザード状態で条件付けした群との違いについて検証を進めた結果,現時点では記憶の影響は見られたものの統計的な有意差は示すことはできなかった. ●視覚刺激に対する視葉神経細胞,下降性神経細胞の受容野特性の計測,数理モデル構築については,データが十分に得られず,モデルへのインプリメントまで至らなかった.
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