研究課題
基盤研究(C)
ベータアミロイドは、アルツハイマー病の成因における主役と考えられている。一方、軸索輸送は、神経細胞内の物質輸送を担う重要な機能であり、その障害は神経変性、神経細胞死を招く。本研究者は、高感度ビデオ顕微鏡を用いて軸索内オルガネラの動態を観察することにより、ベータアミロイドが海馬神経の軸索輸送を進行性、不可逆性に抑制することを明らかにした。さらに本研究者は、細胞化学的実験(細胞内アクチンフィラメント生体染色)により、この抑制作用は、細胞骨格を形成しているアクチンの重合・凝集によって発現することを見出した。このアクチンの変容は、ベータアミロイドを洗浄しても元に戻らなかった。アクチン重合薬を用いて細胞内のアクチンの重合を促すと、軸索輸送は不可逆性に著しく阻害された。ベータアミロイドの軸索輸送抑制作用はアクチン脱重合薬の前処置により阻止された。ベータアミロイドの各フラグメントを用いた実験から、アクチン変容を引き起こす活性アミノ酸配列部位を31-35部位と同定した。また、ベータアミロイドの活性アミノ酸配列部位が細胞膜に接することにより、細胞内アクチンの変容が起こることが確かめられた。蛋白であるベータアミロイドが会合し、活性アミノ酸配列部位が露出せず細胞膜に接しにくい構造をとる場合には、ベータアミロイドの毒性は減弱した。本研究結果は、アルツハイマー病の予防と治療に示唆を与える意義をもつものと考えらる。
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