研究概要 |
脳内グリア細胞、特にアストロサイトが、シナプス伝達の制御と密接に関連している可能性が示唆されている。私は、以前からATPによるアストロサイト間のコミュニケーションの存在を指摘しており、今回『ATPを介したアストロサイト-シナプス間の極めて親密な連絡機構が存在する』との作業仮説を提唱し以下の事象を明らかとした。 1.ATPは海馬の神経伝達物質である ATPが中枢神経系の神経伝達物質であることを初めて証明したのは、手綱核を用いたEdwardsら(Nature,359,144-7,1992)であった。申請者は、ATPが海馬でも神経伝達物質として機能すること、またATPが前シナプスに作用しグルタミン酸放出を抑制し、興奮性シナプス伝達を抑制することを明らかとした。 2.神経伝達物質ATPはニューロンからアストロサイトへも伝わる 各種グルタミン酸受容体拮抗薬存在下で海馬神経細胞に脱分極刺激を与えると、ニューロンでは電位依存性Ca^<2+>チャンネルを介する細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)が上昇し、これは数秒のタイムラグを経て近傍アストロサイトの[Ca^<2+>]i上昇を誘発する。これらアストロサイトのCa^<2+>応答は、ニューロンから放出されたATPに起因していた。ATPを介した、ニューロンからアストロサイトへのコミュニケーションの存在を証明した。 3.ATPはアストロサイト間の情報連絡"Ca^<2+>wave"の伝播を形成する ATPは非常に低濃度で海馬初代培養アストロサイトの[Ca^<2+>]i上昇を惹起する。単一アストロサイトを軽く機械刺激すると、先ず被刺激細胞で[Ca^<2+>]iが上昇し、数秒のタイムラグを経た後周囲のアストロサイトにCa^<2+>waveとなって伝播する。このアストロサイト間情報連絡"Ca^<2+>wave"が、主に細胞外ATP及びP2受容体活性化に起因していることを証明した。また細胞外ATP画像化法により、ATPの放出・拡散を確認した。 4.アストロサイトは細胞外ATPによりシナプス伝達を即時的に制御する 海馬のニューロン・グリア共培養細胞では、興奮性シナプス伝達に起因するニューロンの自発的Ca^<2+>振動が認められる。アストロサイトを局所刺激すると細胞外ATP依存的なアストロサイト間Ca^<2+>wave伝播が惹起されるが、これにより周辺ニューロンの興奮性シナプス伝達がダイナミックに抑制されることを証明した。さらに、アストロサイトは自発的ATP放出能をも有し、シナプス伝達を恒常的に制御していることを明らにした。ATPがアストロサイト-ニューロン間の極めて重要な液性情報伝達物質であること、またATPによりアストロサイトはシナプス伝達を極めてダイナミックに制御していることを証明した。
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