研究概要 |
大脳基底核疾患であるパーキンソン病においては,レム睡眠の減少や睡眠時異常行動症候群などの睡眠障害が出現する.これらの知見は基底核が運動や認知・学習などの機能に加えて睡眠の制御にも関与しており,そのメカニズムの破綻が睡眠障害を誘発する可能性を示唆する.レム睡眠時の運動機能を実現する基本的な神経機構は脳幹と脊髄に存在する. そこで本研究課題では,大脳基底核から脳幹へのGABA作動性出力がどの様にレム睡眠時の運動抑制機構の活動を制御するのかについて解析を試みた.実験には上位脳を離断した除脳ネコ標本を用いた.中脳に存在する脚橋被蓋核(PPN)に微小電気刺激やGABAの拮抗物質を微量注入すると,急速眼球運動を伴う筋緊張消失(REM with atonia)を誘発できること,基底核の出力核である黒質網様部(SNr)にGABA作動薬を注入するとREM with atoniaが出現すること,そして,SNrに電気刺激を加えるとPPN刺激によるREM with atoniaは抑制されることなどを見出した. 次に,SNrからPPNへのGABA作動性投射による脊髄α運動細胞の興奮性調節機構について解析した.PPNに微小電気刺激を加えると,後肢の伸筋・屈筋を支配する脊髄α運動細胞の膜電位は過分極側に移行し,運動細胞の発射活動は抑制された.これに随伴して運動細胞の膜抵抗は低下した.この運動細胞に対する抑制効果はSNrへの電気刺激により消失したが,このSNrへの作用はPPNへGABA拮抗物質を注入することによりブロックされた. これらの成績は,PPNからのコリン作動性投射系の賦活によるレム睡眠時の運動抑制は,主にα運動細胞に対するシナプス後抑制作用により誘発されること,そして,基底核からPPNへのGABA作動性投射がPPNのコリン作動性細胞の活動を調節することにより,レム睡眠の発現や維持に関与している可能性を推定させる.
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