研究概要 |
音楽知覚に対する生理学的・工学的研究が近年盛んになりつつある.我々は,音楽は芸術的手段の中で最も数量化しやすいものであること,それにもかかわらず感性の最も根源的な部分を揺り動かす力を持っていることに着目して,感覚の定量化に最も適した材料であるとの認識で研究を開始した.以下に,主な実験項目とその結果について要約する. (1)聴覚逆方向マスキングとMEGの関係-聴覚マスキングは周波数選択性,さらに時間分解能を通じて音楽知覚と深く関わっていると考えられる.特に逆方向マスキングは言語能力の発達と関連があることが最近明らかになり,注目されている.我々は逆方向マスキングを起こすような刺激に対する脳磁界反応を調べた.その結果,たとえばN1mのピーク値が,信号音とマスカーの関係により,興味深い変化を示すこと,それを心理学的研究で用いられている時間窓モデルで,ある程度説明できることを明らかにしつつある. (2)不協和音に対するMEG反応-特に短二度音程の2音に対するMEG反応のN1の後に,多くの被験者において直流的なシフトが生ずることが分かった.これは純音を40Hzで振幅変調したときに見られるものとよく似ているので,うなりによるものではないかと考えられる. (3)メロディー知覚に対するワーキングメモリーの役割とMEG反応-3音からなる短いフレーズを何種類か用意し,ワーキングメモリー実験で用いられる手法を用いて,心理学的実験とMEG計測の両方を行った.すべてのタスクに対して右半球のMEG応答が優勢であったが,容易なタスクに対する応答が他の場合に比べて明らかに大きかった. (4)聴性40Hz応答の位相同期-(2)に関連する研究として行ったもので,40Hz振幅変調されたチャープ音に対する応答の位相同期を計測し,そのモデル化を行った.
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