研究概要 |
バイオフィードバックは,心身相関における,意識上と意識下にまたがる学習過程と考えられる。本研究では,(1)意識変容,(2)順応,(3)記憶とイメージ,(4)自律神経系の中枢機序の4点を採り上げて実験を行い,脳機能をfMRIなどにより測定した。また,それらをもとにバイオフィードバック全体の機序を説明できる神経学習モデルを提唱した。まず意識変容に関しては,奥行き多義図形を用いた立体視覚実験を行い,バイオフィードバックにおける「気づき」と呼ばれる意識変容に通底する実験系を構築し,意識変容形成に関して前頭前野の活動が密接に関係していることを見出した。また,バイオフィードバック情報知覚と意識の関わり方を調べるために聴覚順応過程を測定し,脳活動から順応程度を評価することができた。次いで,バイオフィードバック学習訓練媒介過程で重要なイメージの問題をとりあげ,各種イメージを比較検討した結果,前頭前野の活動を促すという点で,自伝的記憶に付随したイメージ活用がより効果的であることを見出した。自伝的記憶の中でも時間的には古いものが,また情動的には自己肯定感を伴うものが効果的であった。さらに,意識上と意識下をつなぐ要素として,自律神経活動時の中枢神経活動を観測し,大脳辺縁系および基底核にわたる広範な活動を確認した。以上を総合する形でバイオフィードバック学習成立過程を説明する神経学習モデルを提出した。その中では,各自律神経活動はそれぞれ固有のフィードバック回路により制御を受けていると表現されるが,外部情報経路の付加により特定の情報が学習系にもたらされることにより,選択的にフィードフォワード系回路が形成され,それがバイオフィードバックにおける学習成立に対応すると考えられた。同モデルを用いると,学習が成立しにくい条件も示されるので,それとバイオフィードバックの臨床適用時の経験的知識との関連を検討した。
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