| 研究概要 |
被験者の視野周辺部に動的テキスチャを呈示し,その一部にその周辺とは異なる特性を持つ小領域(filling-in対象)を設けた際に,filling-in対象が消滅して知覚される錯視現象は,視知覚充填(filling-in)と呼ばれている.この現象を解析し,その発生機構を解明することにより,視覚神経系における効率的な情報獲得,処理機構を理解できる可能性がある.そうした観点から,我々はfilling-in発生特性の検討,発生機構の解明に関する研究を実施している.
本研究では,はじめに,filling-in対象の周囲に配置した動画像が持つ時空間周波数が,filling-inの起こりやすさに与える影響を明らかにした.その中で,filling-in対象の知覚強度(知覚パワー)を表現するfilling-in発生プロセスのモデルを提案し,知覚パワーの減衰によってfilling-inが起こる過程を調べた.その結果,外側膝状体(LGN)Pチャネル(視覚の空間情報経路)の感度が高い場合にfilling-inは抑制され,LGN Mチャネル(視覚の時間情報伝達経路)での感度が高い場合にはfilling-inが促進される傾向があることが示唆された.
次に,filling-inの起こりやすさと眼球運動の関係を調べた.被験者の固視が充分な場合には,filling-inされるまでに要する時間と眼球運動との間に,中程度の相関があることが分かり,filling-inの起こりやすさは眼球運動に依存することが示された.
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