研究概要 |
人間を含む脊椎動物の運動学的振舞いの解析や理解及び医工学分野への応用を狙いとして,人間の運動制御系/筋収縮過程(ニューロマスキュラーシステム)のモデリングを行った。まず,骨格筋のモータモデルとして,クロスブリッジサイクリング機構と粘弾性力学モデル(2-Maxwell & 1-Voigt Motor Model)を組み合わせたモデルを提案し,等張性収縮試験,エネルギー遊離(energy liberation)及びslow stretch/release試験等の数値シミュレーションを行った。発生張力に比例して粘弾性係数の重みが変化するという仮説を導入することによって,非線形な荷重-速度関係を実現でき,またモータにエネルギー節減機能を付与することができる。また,slow stretch/release試験において「モータの発生可能な張力は外部から蒙った「正負の力積」に依存して増大又は低下する」と仮定すると,force enhancementとforce depression現象を統一的に説明し得ることを示した。さらに,筋収縮/張力発生過程のうち,これまで未完成であった筋小胞体モデルとして,入力を活動電位,出力をCa^<++>濃度とするシステムを「インパルス応答関数のたたみ込み積分」で表すことによって,骨格筋の「単縮」「加重」「強縮」現象を適切に表現することができた。そして,この筋小胞体モデルを,上述のモータモデルに接続し,入力を活動冠位,出力を力とするより完全な筋収縮過程モデルを作成した。そのシステムモデルに対して筋電位実測データを入力して張力発生の数値シミュレーションを行い,出力としての力の時間変化曲線を求めた。そして,5種類の力発生実験(等尺性最大張力の発生,急激で単発的な力の発生,急激で単発的な力の弛緩,ゆっくりした張力の増加と減少,単発的な力発生の繰返し実験)の実験結果とシミュレーション結果はよく一致することが確認できた。以上のように,本研究の完遂を通して,当初目的としていたヒト運動制御系/筋収縮過程(ニューロマスキュラーシステム)モデルを構築することができた。このモデルは,筋の速い収縮運動(動特性)のシミュレーションに対しても十分有効であり,今後医用生体工学・生体材料学分野等の発展に寄与できるものと考える。
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