研究概要 |
神経性疼痛の動物モデルとして,Bennettらはラットを用いて絞扼性神経損傷(chronic constriction injury;以下CCI)モデルを作成し,その病態を報告している。本研究では,Bennett変法を用いてマウスを対象としたCCIモデル作成を試み,熱刺激と触刺激に対する行動観察を行った。また,骨の組織学的な観察を行った。対象は,C57BL/6NCrj系雄性マウス26匹(体重23±1.7g,週齢11週)とした。C57BL/6NCrjマウスを対象としてBennett変法を用いてCCIモデル作成を試み,その行動観察および破骨細胞数の測定を行った。1.D.S.は術前と比較して術後8週まで有意に減少していた。2.術側において,術後3週まで触刺激による逃避反応回数は有意に増加していた。3.破骨細胞数は非術側を比較して術側において増加が観察された。以上より,C57BL/6NCrjマウスにおいてもCCIモデルの作成が可能であった。今後,破骨細胞の観察の際の切片作成や染色の方法に関して,その方法の見直しと技術の向上が必要である。また,CCIモデルにおける破骨細胞数の変化や骨萎縮に関して,今後CCIモデル以外のモデルとの比較検討が必要であると考えられ,その基礎研究として本研究によって得られた正常マウスでのCCIモデルに関する知見は有用であると考えられる。 また,CCIモデルにおける筋萎縮が神経原性であるか,廃用性であるかについて組織学的に検討しているものは少ない。そこで次研究では,CCI術,不動処置を行い,それらに生じる筋萎縮に不動が影響しているか,その他の因子が存在するかについて,形態学的に観察・比較し,さらに酵素組織化学的に検討した。対象は,C57BL/6N系雄性マウス62匹(体重21.70±1.29,10週齢)を使用した。実験群は1)CCI術のみを行ったCCI群23匹,2)固定のみを施した不動(immobilized;以下IM)群17匹,3)CCIに固定を施したCCI+IM群22匹とした。結果としてD.S.は,各群で術前と比較して術後全ての週で負の値を示し,術前の逃避反応時間は有意に短縮した。筋湿重量の左右比較は,術後2,3週で各群全ての筋において術則のMWが有意に減少した。群間比較について,3週のTAはIM群>CCI+IM群>CCI群,GCはIM群>CCI群>CCI+IM群の順でMWが減少し,有意差がみられた。本研究でCCI群およびCCI+IM群は,IM群と比較して筋萎縮程度が高い傾向を示したことから,CCIモデルにおける筋萎縮には不動以外の因子も含まれていることが示唆された。不動以外の因子としてまず,緩結紮部の炎症のために運動神経の部分損傷が生じている可能性が考えられる。また,神経の炎症が痛覚伝達路を刺激,神経ペプチドや発痛物質が組織中に出現することで,筋組織に影響を及ぼしている可能性も考えられる。今後,組織学的に筋萎縮の病態について観察していく必要がある。
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