自己調整学習方略に関する従来の研究では、学習者が自発的に採用する学習方略を、学習成績の上位グループと下位グループとの間で比較することによって、その運動課題を学習するための適切な学習方略を明らかにしようとしている。しかし、この方法では単に成績の優秀なものと劣っているものとの学習方略の違いを明らかにしただけであり、それが最善の方略であるのかを明らかにすることはできない。人間が運動技術の学び方をどの程度知っているのかを明らかにするためには、学習者が自発的に採用する学習方略を、その運動技術を学習するための最善の学習方法と比較する必要がある。 そこで本研究では、この点を明らかにするために、三つの実験を行った。それらの実験で用いられた学習課題は、7つの動きによって構成される全身を使った系列運動課題であった。被験者は、モデルが行う模範演技を撮影したビデオテープを見て、モデルの動きを覚えることが要求された。 最初の二つの実験では、この運動技術を覚える最善の学習方法とはどのようなものであるのかについて調べた。その結果、初めに介入動作を伴わせながら動作の系列を記憶することに専念し、記憶が成立した後、その記憶に基づきながら調整練習法によって運動技術の再生の練習を行うやり方が最善の学習方法であることがわかった。 以上の結果に基づき、第3の実験では、小学生と大学生を被験者として、自由に練習させる条件と、前述した最善の学習方法で練習するように指導された条件との比較を行った。その結果、小学生のみならず大学生においても、自由練習条件より指導条件の方が学習成績において優れていることがわかった。これらの結果は、小学生・大学生を問わず、運動技術の学び方についてのメタ認知が人間には十分に確立していないことを示唆している。
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