研究概要 |
血圧測定時に血管音を聴診できるが,この音は血管内の血流に乱流が起こることで発生している.血管壁が柔らかい場合と固い場合では乱流に違いがあり,それは音の周波数成分の違いとして現れるのではないかという仮説を検証するために実験を行った.被検者男子大学生と30,40,50,60歳代の男性で運動を習慣的にしている人としていない人について調べた.測定は自転車エルゴメータ上に座位した状態での安静条件と,運動条件として軽負荷(20-30w),やや中負荷(50-60w),中負荷(90-120w)の3段階の負荷での血管音周波数を比較検討した.安静条件では大学生3名はピーク周波数(以下,PHzとする)が100Hz以下で,1名は150Hz前後であった.30歳以上の男性ではPHzが低い場合でも90-110Hzで,PHzが高い場合は130Hz台,150Hz台,さらに高い場合は170Hzという値も見られた.中年者問での運動歴との関係を見ると,運動をしている人の方がPHzは低い傾向にあった.運動負荷を掛けた場合は血流速度が速くなるために血管壁の固い人ではPHzがさらに増加する可能性があるので,運動負荷時のPHzを安静値と比較した.また年と運動習慣との関係も検討した.大部分の人で運動によりPHzは増大したが,増大のパターンには個人差が見られた.安静条件で高い人は運動負荷でもPHzがさらに大きく増大する傾向にあったが,安静時に160Hz前後の場合はわずかな増加しか示さず,中負荷でほぼ180Hzであった.安静で約150Hzであった人は中負荷で250Hzまで増加する例もあった.以上の高いPHzの例は運動習慣のない中年の人の場合であり,学生の場合は最大でも170Hzであった.まだ検討すべき点は残されているが,以上の結果は加齢や生活習慣による血管硬化度の進展の違いが,血管音周波数の違いとして評価できる可能性を示唆している.
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