研究概要 |
本研究は、フトモモ科の香辛料であるオールスパイスに含まれる成分を単離、構造決定してその抗酸化特性を明らかにするとともに、活性発現因子を解明することを目的とした。オールスパイスの乾燥果実をヘキサン、塩化メチレン、70%アセトン水溶液で順次抽出し、70%アセトン水溶液抽出物については、さらに塩化メチレン、酢酸エチル、水可溶部に分画した。DPPHラジカル捕捉活性、油系での抗酸化活性がともに高かった酢酸エチル可溶部を各種クロマトグラフィに繰り返し供し、20種の化合物を単離した。各種機器分析を行った結果、フェニルプロパノイド2種、フラボノイド11種、没食子酸関連化合物7種を構造決定した。これらのうち5種の没食子酸関連化合物は新規化合物であり、既知化合物15種のうちの10種は今回オールスパイスから初めて単離された。今回単離した20種の化合物および以前にオールスパイスから単離した化合物17種をあわせて各種抗酸化試験に供した。その結果、DPPHラジカル捕捉活性は1分子中のオルトジフェノールの数が大きく活性に寄与しており、O_2^-ラジカル捕捉活性は1,2,3-トリヒドロキシフェニル基を有する化合物が1,2-ジヒドロキシフェニル基を有する化合物より高い活性を示した。油系における自動酸化抑制活性にはオルトジフェノール構造が寄与したが、90℃で測定した場合配糖体など高極性の物質で顕著に活性が低下した。40℃で測定した場合には抗酸化物質の極性が活性を顕著に左右するような現象は認められなかった。リポソーム膜酸化に対する抑制活性を測定した結果では1分子中に5分子のガロイル基を有するタンニンの活性が最も強かった。フラボノイドではミリセチン骨格を有するフラボノイドよりケルセチン骨格を有する化合物の方の活性が高かった。また、脂質含有食品としてドレッシングを調製し、オールスパイス中に比較的多く含有されている6種の化合物の20℃で保存したドレッシングに対する抗酸化性を測定したところ、活性の強弱はラジカル捕捉能と対応しており、化合物の極性は活性の強弱に影響を与えなかった。以上、オールスパイスの抗酸化性は主にオルトジフェノール構造を有する化合物に起因しており、活性物質の抗酸化特性は、化合物のもつラジカル捕捉能と基質油脂との親和性(化合物の極性)が関与していることが示唆された。
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