研究概要 |
木研究は,技術開発および新しい技術の導入が閉じた技術を超えて社会システムのデザインを伴うことを示す具体的な事例の分析を通して,技術教育とは,生徒や学生に個々の技術的知識や‘新しい'技術を教えることではなく,社会的視点をもって技術的テーマを形成し,技術を評価し,技術について発言していくことのできる力を養うことだとする提言を行った. 具体的な事例研究として,複写機メーカーA社のサービス・エンジニアリング部門,および,S市の健康福祉センター・プロジェクトを調査した.A社の調査ではデジタル化,ネットワーク化といった新しいテクノロジーの導入に伴う修理技術者コミュニティの社会・技術的再編のあり方を,健康福祉プロジェクトの調査ではS市がモデルとしているオウル市(フィンランド)における情報コミュニケーション技術(ICTs)を活用した高齢者をめぐる社会・技術的ネットワーク構築の試みを調査した.一方で,介護保険制度の根幹をなすテクノロジー,「要介護認定」を取り上げ,「要介護認定」とその運用を支える様々なインスクリプションのネットワークをテクノ・サイエンス的観点から分析することによって,日本社会に導入された新しい制度と技術の評価を試みた. これらの調査・研究は,主に,新しいテクノロジーが当該コミュニティのなかで新たな社会的意味を付与され,かつ,そのことを通して関係するコミュニティの様々な人間及び非人間アクターの社会的関係の再編にどのような役割を担ったのかということに焦点を当てて分析された. その結果,新しい技術,開発,デザインの学習はどのようなコミュニティ(学習環境)のどのような社会・道具的configuration(編成のあり方),言い換えれば,どのような技術者,教師,施策,道具のネットワークのもとでなされるかによって達成される学習の内容と成果に大きな差異の生ずる可能性が示唆された.
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