研究概要 |
1.研究目的 本研究の目的は,算数・数学の課題解決方略獲得過程時における脳内の血液量の変化を,近赤外分光法測定装置により明らかにすることである。とりわけ,図形課題を中心に,方略獲得の前後,及び教具使用の有無による測定値の変化に着目する。 2.研究実績 本年度の実施計画においては,以下の(1)〜(3)の三つの実験を考案し,大学生を被験者として脳内の血液動態の測定・分析と学習過程との比較検証を行うことであった。これら三つの実験は,(1)が2次元平面上の課題,(2)が(1)の次元の拡張としての課題,(3)が(1)の現実事象場面への応用としての課題という関係になる。 (1)平面図形における合同の弁別課題における教具活用の有無による方略獲得過程の違いについて 1チャンネル型光計測装置を用い,大学生を被験者として課題遂行時の方略獲得過程の追跡と,その前後における右前額部の脳内の血液動態について測定・分析を実施した。その結果,課題方略獲得前後においてdeoxyHbの増加が顕著となり,方略獲得後には減少することが明らかとなった。 (2)ブロックを用いた立体製作課題における再現課題と創作課題による違いについて 再現課題と創作課題遂行時における右前額部の脳内の血液動態について測定・分析を実施した。その結果,難易の高い再現課題においてdeoxyHbの増加が確認された。 (3)地図上で2地点間を結ぶ際の方角(東西南北)における判読レベルの違いについて 地図上に示された経路の方角判断を行う課題において,進行方向と方向判断の向きが異なる場合,所要時間が大きくなる等の行動観察による差が生じるとともに,deoxyHbの増加が確認された。 (1)〜(3)に共通する成果として,課題方略獲得の有無とdeoxyHbの増減の関連性,すなわち方略獲得前には酸素消費が増加し,方略獲得後には酸素消費が抑制されることが示された。
|