研究概要 |
科学研究費補助金の援助を受けた2年間において,量子力学の解釈問題の研究を通して,実在主義の可能性を追求した.科学的実在主義は,その時代に十分確かめられている科学理論が与える世界像を,客観的実在像として受容する立場である.科学史において,科学理論は,その理論に固有の世界像とともに提出されてきた.しかし,20世紀初頭に現れた量子力学理論においては,数学的フォーマリズムが,整合的な世界像を伴わずに,観測結果を結びつけるアルゴリズムとして,提出された.物理学者は,粒子像のもとで世界を考えたり,波動像のもとで世界を考えたりして,描像を使い分けているが,首尾一貫した世界像を描けないでいる.このことは,物理学者が科学的実在主義を採用できないこと,を意味する.なぜならば,科学的実在主義を維持するための世界像が与えられていないからである.本研究代表者は,相対性理論に対して,直接実在の要素に対応する定式化を与え,その数学的フォーマリズムに基づいて,量子場理論の様相解釈を検討し,いわゆる演算子の場を実在と見なすことができないという結果を日本哲学会において発表した.さらに,世界が本質的に確率的である場合に,その世界についての認識が従わなければならない条件を考察し,確率の傾向性解釈か成立するかどうかを検討し,その成果を,科学基礎論学会のシンポジウムと,名古屋哲学会特別講演会において,発表した.その一部は,『科学基礎論研究』32(2)に掲載された.
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