研究概要 |
この研究の主目的は,南九州に分布する第四紀テフラについて,X線マイクロアナライザーを使って火山ガラスの化学組成を求め,これを基にテフラの特徴づけを行い,テフラ対比・編年を行うものである.今回はその基礎的研究として,火山ガラスの化学組成上の特性を明らかにした.この研究で特に注目したのは,これまでほとんどテフラ編年の系統的な報告例の少ないトカラ列島を含む薩南諸島の後期更新世・完新世テフラである.X線マイクロアナライザーによって,トカラ列島の口永良部島・口之島・悪石島の各火山島で,後期更新世において遠方に飛散していると見られる大規模プリニアンテフラの化学組成上の特性を明らかにした.また薩南諸島-屋久島-において,中期更新世の大規模指標テフラについて,化学組成上の新知見を得た.さらに,こうしたテフラ同定と関連して他のテフラ同定・編年とこれに基づく地形発達と古環境変遷を明らかにした.主な結果は次の通りである.トカラ火山列の口永良部島,口之島,悪石島に分布する後期更新世・完新世の3枚の大規模な降下テフラは,化学組成からは特異な位置を占め,それぞれ識別が可能である.それらのテフラは広域テフラ並の珪長質テフラで,珪酸分に富み,大規模な爆発的噴火の産物であるといえる.それは遠方の薩南諸島の島々や大隅・薩摩半島に達している可能性を示唆する.一方,屋久島の中期更新世のテフラ-小瀬田火砕流,安房テフラ-は,広域に飛散していると見られるテフラであるが,まだ広域対比が明らかとなっていない.それらのテフラに含まれる火山ガラスの化学組成は識別可能な特性を持つことがわかった.遠方でのガラス質火山灰の化学組成の解明によって,その広域性と各地での層位が明らかになるであろう.
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