研究概要 |
1.深層大循環とバリウム(Ba)およびケイ酸塩/硝酸塩比(Si/N)の水平分布 大洋(GEOSECSデータおよび既存の海洋観測結果を用いた)における深層水中(Sigma4=45.86等密度面;深度約4000mに相当)のBaおよびSi/Nの水平分布を明らかにした.深層水大循環の流れに沿って,大西洋の北部域から太平洋の北部域に向かって,Ba濃度は約3.5倍増加し,Si/Nは約9倍大きくなることが判った.北太平洋東部域の深層水が最もBa濃度が高いことが判った. 2.Ba-Si/Nダイヤグラムの開発 海水中のBaとSi/Nの関係をBa-Si/Nダイヤグラムによって解析した.対象とした海域は,北太平洋北緯47度および30度東西横断海域(NP),東インド洋(EI),南西太平洋タスマニア海(TSM),東赤道太平洋湧昇域(EeqP),南太平洋亜寒帯海域(SAA)および南極海(AA)である.また縁辺海として,オホーツク海(OHT),日本海(JPN),南シナ海(SC),スールー海(SL)およびアンダマン海(ADM)においても調べた.いずれの海域においても,Ba-Si/Nダイヤグラムにおける両者のプロットは直線関係を示した.それらの結果を回帰式で示すと次のようである. NP : Ba=2.1+32.4(Si/N) R^2=0.98 (1), EI : Ba=33.5+18.4(Si/N) R^2=0.97 (2), TSM : Ba=32.3+23.2(Si/N) R^2=0.97(3), EEqP : Ba=15.6+32.4(Si/N) R^2=0.99 (4), SAA : Ba=52.1+12.8(Si/N) R^2=0.96 (5), AA : Ba=57.4+10.6(Si/N) R^2=0.92 (6), OHT : Ba=17.5+24.1(Si/N) R^2=0.97 (7), JPN : Ba=30.8+15.2(Si/N) R^2=0.85 (8), SC : Ba=3.5+28.3(Si/N) R^2=0.99 (9), SL : Ba=24.3+17.5(Si/N) R^2=0.98 (10), ADM : Ba=25.9+20.2(Si/N) R^2=0.99 (11) 結果として,海域ごとの直線の傾きは南極海において最小値を示し,北太平洋で最大値となった. このように,現在の海水中におけるBa対Si/Nの組成は大洋あるいは縁辺海においても海盆規模では一定となる関係が得られた.Ba-Si/Nダイヤグラムにおけるこのような海盆規模における直線関係は,過去の海水組成を復元する物差し(曲がっていない)として利用可能であることを強く示唆している.
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