研究概要 |
南極大陸沿岸で発生する沿岸海氷と棚氷の崩壊・流出現象に着目し,その実態把握と発生機構の解明を主目的とした.研究対象海域であるリュツォ・ホルム湾(南緯69度,東経38度周辺)には,日本の南極観測基地である昭和基地が位置し,種々のデータ,資料が蓄積されている.本研究では衛星画像を中心に活用した他,各種報告等の資料や地上気象観測データを用いて解析した結果,以下の知見を得た. 1.定着永の崩壊,流出の開始時期は秋季(3〜4月)に集中している. 2.1980年以降では,1990年代前・中期を除いて流出が頻発している.特に1997年に発生した広域流出は顕著であり,その後は2005年まで毎年流出している. 3.流出要因として少積雪,高頻度の南風,沖合流氷域の局所的後退の寄与が大きいと考えた.それらの発現時期と流出年との間に良い相関が認められた. 4.同湾内奥部から流れ込んでくる白瀬氷河の浮氷舌末端の動態を定着氷の安定/不安定性の指標として,過去50年間の湾内定着氷の流出発生有無を推測した.その結果,950年代から1970年代までの約30年間は安定であったが,1980年代以降現在までは流出が頻発する不安定な状況にあることがわかった. 沿岸海氷域の状態,特に海氷流出の有無が沖合流氷の消長と密接に関連していることが明らかとなった.これは近年,南極半島で観測されている棚氷の大規模崩壊と海氷分布との関連から説明される物理過程と類似した解釈が可能である. 以上のように海氷流出の変動履歴が明らかとなり,既存のデータ解析から,海氷流出の発生要因を解釈した.流出機構を定量的に解釈し,今後の氷状変化予測に役立てるためには,地上気象要素(積雪深,風など)の年々変化を引き起こす広域の大気場変動を気候学的な観点から考察し,また特異な沖合流氷分布から派生するポリニア出現については海洋物理学的観点から調べる必要がある.
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