研究概要 |
平成14年と16年の秋に観測船「みらい」により実施した日本-カナダ共同北極海調査(JWACS)で得た試料の解析結果に基づき、西部北極海における低次生態系構造に対する、物理的・化学的海洋環境変化の影響を明らかにした。特に北極海全体で最も優先する動物プランクトンである大型の食植性カイアシ類2種、Calanus hyperboreusとC.glacilalisをターゲットとし、海域毎の個体群密度、成長段階組成、安定同位体比の違いを調べた。平成14年の観測の結果からは、低次生態系の構造や、生物生産のタイミングが、Mackenzie-Cape Bathurst, Coastal Pacific Water, Chukuchi Shelf slope, Offshore (Beaufort)の海域毎に異なることが明らかになり、その原因として沿岸の太平洋水や、季節海氷の後退時季・規模の影響が示唆された。平成16年の観測は、西経160〜170度付近に位置するChukuchi Plateauをはさんで東西で同様の調査を行った結果、生物生産の規模に東西海域で顕著な違いがあることがわかった。本結果においては季節海氷の影響は認められなかったが、北極海特有の複雑な表層の鉛直構造により東西の成層度合いが変化し、西側では富栄養な、東側では貧栄養な環境が形成され、生物生産に影響を与えたことが考えられた。極域の環境は温暖化等の地球規模変動に対し極めて敏感に反応することが報告されており、実際北極海では近年海氷面積の減少傾向が顕著である。本研究の結果は、海氷の変動とそれに伴う海洋構造の変化が、生物生産の高い夏季北極海において低次生態系にインパクトを与え、有用水産資源を含む高次の生態系に影響を与えるのみならず、生物ポンプの効率も左右する可能性を示唆している。
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