研究概要 |
1)富山県神通川流域カドミウム(Cd)汚染地域住民を対象に,尿細管障害の予後に関する17年間の長期追跡調査の結果,尿細管障害の指標である尿β_2-ミクログロブリン(β_2-M)値の上昇より,尿細管障害の進行・悪化を認め,環境からの曝露が軽減してもCd腎症の進行・悪化がみられることを明らかにした。 2)富山県神通川流域カドミウム(Cd)汚染地域の女性住民147人(40〜69歳)中,尿β_2-M値1mg/g creatinine(Cr)以上の女性11例を見出した。そのうち8例(検査時50〜70歳)について,尿細管機能と骨代謝を検索した結果,3例を多発性近位尿細管機能障害と診断した。第2中手骨X線像による骨濃度測定の結果,骨量の著しい低下を認めた。2例は脊椎圧迫骨折を,さらにそのうちの1例は大腿骨頚部骨折をきたしていた。このことから,昭和12年の出生あるいは昭和30年以降の居住においても,Cd暴露による高度の多発性近位尿細管機能障害ならびに骨代謝異常の出現が示唆された。 3)尿細管機能異常例の20年間の追跡研究の結果,女性においては,尿β_2-M値1mg/gCr以下では進行・悪化はみられず,20mg/gCrを超える例では,多発性近位尿細管機能異常の進行・悪化を認め,30mg/gCrを超える高度例では慢性腎不全に進行した。高度例においては骨軟化症の合併もみられた。男性においては,片腎摘出あるいは尿管結石の合併例において,明らかな多発性近位尿細管機能異常の進行・悪化を認め,1例は慢性腎不全を呈していた。しかし,骨改変層を伴う骨軟化症はみられなかった。 4)尿細管障害の頻度および程度に関しては,世代間格差を示唆する成績を得ており,今後の当該地域のCd腎症ならびに骨代謝異常(イタイイタイ病)の発症について,世代別に明らかにしていく予定である。
|