研究課題
基盤研究(C)
DNA損傷に対する遺伝子防御機構に小胞体タンパクが関わるという報告は、これまで極めて少ない。本研究では、小胞体ストレスタンパクBip/GRP78の紫外線応答への関与を解明することにより、小胞体タンパクによる遺伝子防御機構の存在を立証する。初めに、培養ヒトRS系細胞にBip/GRP78mRNAのアンチセンスDNAを導入し、Bip/GRP78タンパク質の発現が抑制された細胞を樹立した。同時にベクターのみを導入したコントロール細胞も得た。両細胞について、DNA損傷因子として紫外線を用い、紫外線照射後のヒト細胞の応答のうち、主に、細胞死誘導および損傷DNA修復におけるBip/GRP78の関与について解析し下記の成果を得た。1)両細胞の増殖速度、細胞周期には差がみられなかった。2)colony survival法およびMTT法で調べた致死感受性は、Bip/GRP78の発現が抑制された細胞においてコントロール細胞より高かった。3)紫外線照射後のDNA損傷修復能について、紫外線損傷DNAに対する抗体を用いたELISA法による損傷DNA除去能の解析および紫外線損傷を受けたプラスミドを基質に用いたDNA修復合成レベルの解析を行った。両修復能とも、Bip/GRP78発現抑制細胞でコントロール細胞より低下していた。4)紫外線以外のDNA損傷因子としてDNA架橋剤シスプラチンとカルムスチンに対する感受性をMTT法で調べた。カルムスチン感受性は発現抑制細胞とコントロール細胞間で差がみられなかったが、シスプラチン感受性は発現抑制細胞で増加していた。シスプラチンによる損傷DNAは、UVC損傷DNAと同様に、主に、ヌクレオチド除去修復機構により除去されると報告されている。以上の結果は、Bip/GRP78が紫外線照射後のヌクレオチド除去修復過程への関与を介し、紫外線致死抵抗化に関わる可能性を示唆する。
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