研究概要 |
工場などから漏出し,地下に浸透した有機塩素系溶剤の新たな処理法として実用化の検討がされている「洗浄剤注入法」について,効率と安全性を示すいくつかの性質について検討を行った.界面活性剤(陰イオン性4種,陽イオン性1種,非イオン性5種)および高分子量有機化合物(4種)を洗浄剤として,トリクロロエチレン(TCE)の水への飽和溶解度変化,ガラスビーズ充填カラム中での重力によるTCE原液の下方浸透性の変化,そして鉄粉によるTCEの分解反応への影響を検討した. TCEの水溶解度は,共存する界面活性剤濃度が臨界ミセル濃度を超えるとミセル可溶化により著しく上昇するが,その度合いは界面活性剤の種類により異なり,セチルトリメチルアンモニウム,Tween-20,Tween-60が10g/L共存すると,純水の10倍まで上昇した.一方,ドデカンスルホン酸,Triton X-100および高分子量有機化合物ではTCEの溶解度上昇は見られなかった. 一方,4mm径ガラスビーズカラムでのTCEの下方浸透は,ミセルやエマルションとしてではなく,原液の細粒として浸透することが分かった.セチルトリメチルアンモニウム,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸,Brij-35は測定を行った0.1から10g/Lの濃度でいずれもTCEの下方浸透性を著しく上昇させた.これらの界面活性剤を洗浄剤として使用した場合,地下の不透水層上に滞留したTCE原液が微細なクラックを通してさらに下層へと拡散する恐れがあることを示している. 鉄粉によるTCEの脱塩素還元分解速度は,14種類の洗浄剤いずれを添加しても,純水中での値よりも減速した.特に非イオン性界面活性剤では減速効果が大きく現れることが分かった.これは,非イオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度が低く,ミセル可溶化の影響が現れやすいためと考えられた. このように,洗浄剤注入法を実用化するためには,効率的な溶解度上昇を図ると共に,汚染の拡散や回収したTCEの分解処理に影響を与えにくい洗浄剤を選択する必要があることが明らかとなった.
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