研究概要 |
この報告書では,研究課題に関して以下の観点から日本の明治期における女性スポーツ(主にボールゲーム,体操,柔道,戸外運動<アウトドア・スポーツ>)の性差について歴史的事実の掘り起こしと言説分析を行った.その1つは,生物学的性や性差を形成してきた医学・衛生学的言説と女性性や性差の社会規範を形成してきた社会・教育的言説の対峙性と相補性に着目した.2つ目は,体操を含めた欧米スポーツと日本的スポーツ,さらに国内外の戸外運動と女性性・性差の創造や変革との関連性に着目した.しかもその分析は,制度的資料以上にスポーツする側の女性が立ち現れる教育現場(ローカルな資料)の資料に基づいた.この論文では,既存の制度史研究での知見を補う女性スポーツの歴史的展開を提示した. 研究の結果,女性スポーツにおける女性性や性差の創造と変革には,医学・衛生学的言説(科学的知)と社会・教育的言説(思想・実践的知)が時系列的に対立物の統一となって立ち現れた.しかも社会・教育的言説による女性性・性差(いわばジェンダー)の変革の転機は,前世紀初頭の国民国家形成期に胎動し,高等女学校の制度化と連動していた.明治期の女性スポーツでは,欧米女性スポーツと日本的スポーツが,「稽古の思想」「技術化の思想」という形で発見・創造され,両者が文化習合するなかで女性性を「品性=淑女=レディ」を育む教育方法として位置づけられて展開した.加えて,女性の自転車乗り(サイクリング)・登山(遠足を含む)などの戸外運動がステータス・シンボルとなり,女性へのスポーツ解放を促進した.
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