研究概要 |
本研究では、今日学際的に提起され議論されている「環境的正義」をめぐって、その概念の由来とともに、研究者の諸説の整理を行い、大学院生の協力を得た事例研究を踏まえて、共生理念や情報技術との関係での諸問題の理論的解明を行なった。 まず、「環境正義」という言葉が米国において社会的正義との関係においてどのように形成されたかを解明した。その結果、シュレーダー=フレチェットがその本("Environment Justice",OxfordUniversity Press,2002)において指摘したように、アメリカ環境運動史における環境主義からの重要な転換を意味するものであることが明らかになった。 しかし、もともと日本における「公害」と呼ばれる環境運動は、水俣病事件にみられるように社会正義の諸特徴をもっていた。従って、日本で始めての「自然の権利」訴訟である「奄美のクロウサギ」訴訟は運動、米国での最初の「樹木訴訟」に代表される自然の権利訴訟運動(それはもっぱら自然保護の性格が強い)と違って、奄美が置かれた政治的社会的位置の問題性と深くかかわるものであった。また、韓国でのサンショウウオ訴訟の事例研究から、その訴訟運動は宗教的精神的バックボーンを色濃く反映する点、日本、米国とも異なったものといえることが明らかになった。このように、水俣、韓国、米国において行った、「自然の権利」訴訟運動の事例調査は、三者の違いを明らかにするものとなった。 さらに、もとより、公共圏は環境正義を実現するうえで、重要な意義をもつものであるが、その公共圏形成へのインターネットに代表される情報技術との関わりなども日本や韓国の事例研究をもとに行った。 本研究は、こういった調査を踏まえて環境的正義と共生理念の関係を思想的に探ろうとする点で、従来の文献研究中心の哲学・思想研究と異なる、いわゆる「臨床哲学的」試みともいえる独自な研究スタイルの一例となったといえる。成果の詳細は、科研費報告書と拙著『環境思想と人間学の革新』においてすでに発表されている。
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