研究課題/領域番号 |
15520029
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
哲学・倫理学
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
星野 勉 法政大学, 文学部, 教授 (90114636)
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研究期間 (年度) |
2003 – 2004
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研究課題ステータス |
完了 (2004年度)
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配分額 *注記 |
2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
2004年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2003年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | 和辻哲郎 / 倫理学 / 風土 / ハイデガー / 解釈学 / 超越 / 日本的道徳意識 / 比較研究 / 道徳規範 / 人格の同一性 / 信頼 / 公共性 / コミュニタリアニズム / 徳倫理学 |
研究概要 |
現代では、既存の信念体系の信憑性が揺らぎ、これまで自明とされてきた道徳規範が根底から問い直されつつある。例えば、英語圏の倫理学では、「なぜ道徳的でなければならないか」との問いのもとに、道徳規範の妥当根拠を改めて問い直すことを通じて、新たな道徳規範の合理的な再構成が試みられている。しかし、倫理現象とは道徳意識の前提となる信念体系に裏打ちされたものであるから、合理的な再検討によって問題視される信念体系をこそ、非合理なものとしてただ切り捨てるのではなく、倫理学の主要な研究対象に据えなくてはならないと思われる。 本研究では、日本社会における倫理現象を根底で支える信念体系や道徳意識を究明するにあたり、持ち前の直観でもってそれにもっとも肉薄した和辻哲郎の倫理学研究を手がかりとした。そのさい、和辻の倫理学研究に強い影響を与えた西欧の哲学、とりわけハイデガーの哲学にも目を向け、それとの比較研究を通じて、和辻によるハイデガー哲学の批判的な受容のうちに、日本の文化的な伝統に根ざしながらも日本的な特殊性に閉塞するのではない、和辻の倫理学の特殊性と普遍性とを見届けることとした。 和辻は、西洋哲学の伝統のなかにありながら近代的な知のあり方に対して異を唱えるディルタイ、ハイデガーらの解釈学を方法論的な枠組みとして採用する。しかし、この解釈学を独自の観点から組み替えることによって、和辻は新しい倫理学の可能性を切り拓いたと評価してよい。和辻が展開している解釈学については、あえて日本語に寄り添い、日本語に埋め込まれている隠れた実践を読み解くことによって、実践の内側から人間学的な意味連関を理解し自覚化するという手法が採られていること、しかも、それが一般理論としてではなく「人間の学」すなわち倫理学の方法論として取り扱われていること、この点にその優れた特徴を認めることができる。和辻は、このような解釈学によって、西洋の哲学者たちの唱える解釈学の前提を批判することができたばかりか、西洋の個人主義的な人間概念に代わる「人間」概念や時空複合体にかかわる「風土」概念を提示することができたと思われる。しかしながら、実践の内側への密着、すなわち、「日常直接の事実」の重視や自然の感覚的現れそのものへの密着という、特殊日本的な感性に根ざす彼の独特の哲学姿勢は、和辻の倫理学、風土論が日本的な特殊性を潜り抜けて普遍性の地平へと通じていく局面を切り拓くと同時に、直接的なものを構造化することなくそのまま受容するという日本的な特殊性(悪弊)へと閉塞させるという両義的な方向性をもっ。ここに、和辻の倫理学、風土論を評価するにあたっての、また、日本的な道徳意識を究明するにあたっての最大の困難があると言えよう。
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