研究課題
基盤研究(C)
当研究では、ペーター・ハントケの自然及び事物の描写が持つ文学表現上の意味に着目することによって、同文学の詩的表現に含意された歴史的かつ政治的な批判意識を明らかにすることを目指した。ハントケの創作は70年代中頃になると、初期の言語理論的な作品からより物語性の強い詩的表現に重点を移す。物語の中心を成すモティーフの一つは、家族の物語である。ハントケが作品に家族のモティーフを取り込むきっかけとなったのは母親の自殺であり、それは同時に、過酷な現実を前にして「書くこと」つまり言語表現が可能かつ有効であるのかという文学的な問いかけをつきつけた。このように、社会現実的な性格と言語表現上の性格の両者がからみあった作品を書くことが、その後のハントケの文学的主題の中心を成すことになる。そうした主題を持つ最初の作品が、当研究でまず取り上げた『満ち足りた不幸』である。ハントケは上記主題をより発展させるために、自らの文学的な感性や意識を具象的に叙述することを可能にする自然の風景や事物の発見に努める。それは、画家セザンヌの絵画理論への親近性を意味し,それを作家自身は『サント・ヴィクトワールの教え』の中で自らの表現形式として表明する。こうして得た表現形式に基づいて書かれたのが、家族の物語と自律的な言語世界としての「物語」を実現しようとした『反復』である。さらに研究者は作品に描かれた諸地域を実地に検証することで、上記三作品の自然と事物のモティーフが持つ文学的意味についてより具体的な研究成果を獲得することができた。
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明星大学研究紀要日本文化学部・言語文化学科 14
ページ: 91-109
Department of Japanese and Comparative Culture School of Japanese Culture no.14
秋田大学教育文化学部研究紀要人文科学・社会科学 59
ページ: 1-8
Memoirs of Faculty of Education and Human Studies Akita University, The Humanities & the Social Sciences No.59
秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学 第59集