研究概要 |
3年間に及んだ本科研では,狭義の「西洋古典学」に関わる当地の現況把握のみならず,様々な伝承形態のうちに現在なお中欧諸国に息づいているギリシア・ローマあるいはビザンツ,さらにはルネサンス期文化の諸相を捉えることに努めてきたが,その成果は同題目による研究成果報告書(A4版124頁)のうちに集約されている.同書は全5部より成り,各章題は1.中欧・ハンガリー地域研究,2.ギリシア・カトリック教会研究,3.教父学,4.西洋古典学,5.仏教・比較思想研究となっている.ここでは特に「ギリシア・カトリック教会」が維持してきた伝承を強調しておきたい.すなわち,中東欧域に広く展開する同組織は,ビザンツ神学・典礼,および東方教会法を護持しながらヴァティカンと一致し,ラテン語や西方教会法,教皇史などに関する知的水準を維持し,古代中世東西地中海文化の結節点として現在なお機能している.その中でもハンガリーのものは,同地の言語がアジア系でもあることから,今後わが国の西洋古典教育に対しても大きな裨益をなすものであろう.研究代表者はこれまで主としてギリシア教父の視点を活かしながら,西洋古典を賦活化するために「予型論」の視座を用い,これを古典解釈の基軸とする試みを行ってきた.今回の科研で,その視点を現代に継承するものとして「ギリシア・カトリック教会」を位置づけることが叶い,昨今衰退の甚だしい古典古代文化教育に対しても新しい視点を提供することができるのではないかと期待している.この他,特に15世紀マーチャーシュ王治下のハンガリーに開花した高度な人文主義的文化は「ヴァティカンに次ぐ」とまで評された絢爛たる蔵書に集約されるものであり.往時の文化水準は,ほぼ旧ハンガリー王国の故地とも重なる現中欧諸国にあって,なお衰えることなく継承されている.未知であった中欧は,今後の欧州文化研究にとって不可欠な一地域となるであろう.
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