研究概要 |
タイ国スリン県に主として分布するクーイ語(スエイ語ともいう)について,研究代表者が音声、音韻および言語併用状況に関する調査を行った。一方,録音資料に基づき,研究分担者が音響分析および音韻分析を行った。 1.同県はクーイ語の他、ラオ語(タイ語東北方言),スリン・クメール語の多言語使用地域でもあるため、現地の多言語使用の実態についての調査を行った。2003年度に地域の小学校,中学校を訪問し,インタビューを行ったが、他地方出身の教師を除けば、多数を占める地元出身の教師がクーイ語あるいはラーオ語の使用について、むしろ積極的であること、その結果、土着の母語に対して生徒たちが否定的な感情を抱くことがなく、土着語の使用をためらわないことが印象的であった。しかしその一方で、アンケートによる調査結果の分析からは、多言語使用の実態について、興味深い事実が観察された。15歳以下の若年層において、全般にタイ語の流暢度が格段に上昇していること、クメール語あるいはラオ語の母語話者に比べると、クーイ語の母語話者は、母語以外のタイ語、ラオ語、クメール語の運用能力が高いこと、クーイ語の使用ははばかられているわけではないが,クーイ語使用者が子供達のタイ語の使用に積極的であるため,危機的な状況にあることがわかる。 2.現地で収集した録音資料に録音スタジオでの資料を加えたものに、研究分担者が実験機器を用いて、主として用いて音響的な分析を行い、さらにその音韻に関する記述を行った。モン・クメール系の言語において,特に音声的な特徴であるbreathy(息漏れ)母音の生じる音韻環境と,語頭の子音連続を中心とした記述と基本的な分析を行った。
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